管内では19年ぶりの献穀奉耕者に 令和5年度宮中新嘗祭に粟(あわ)を奉献
世田谷区 髙橋 光正さん
農業を通じてさまざまな継承活動を
世田谷区上祖師谷で農業を営む髙橋光正さんは、平成17年に家業の農業を継ぎ、20aの畑で約50種類の野菜や花を年間4~8回転で栽培しています。また、上祖師谷郷土研究会を36年前に立ち上げ、地元小学校への食農教育や農ツアーなどを通じて、地域の農業・伝統・文化を守る活動にも力を入れています。
令和5年度宮中新嘗祭に献穀される粟の奉耕者に
髙橋さんとそのご家族は、令和5年度宮中新嘗祭に献穀される粟の奉耕者に選ばれ、11月6日の献納の日には、天皇陛下に拝謁はできませんでしたが、皇室の御先祖様である御廟にお参りしました。
「奉耕者の話をいただいた時に、我が家は上祖師谷で最後まで粟を育てていたので、母と『縁があるね』という話をした。昔は家計を支えるために客人には餅米でついた餅を出し、自分たちは粟・黍(きび)・稗(ひえ)の餅を食べていたので、アワには特段の思い入れがある」と、振り返る髙橋さん。決意を持って歩まれた献穀粟栽培の道は、とても険しく大変なものだったそうです。
暑い夏や台風を乗り越えて
5月、上祖師谷神明社でに祓い清めの儀を行い脱穀した粟の種子は、6月の御播種祭で髙橋さんの畑にまかれ、約100人の参加者全員で豊作を祈願しました。粟の成長に応じて間引きなどを順調に行ってきましたが、夏は猛暑日の記録が更新されるほど暑く、また雨量不足による高温・乾燥障害が発生。さらに、7月末にアワノメイガ、8月末にはタバコガによる食害が発生しましたが、農薬の使用は極力せず、JA東京中央営農指導員の協力を得ながら、根元に潜む幼虫を1匹ずつ捕まえ駆除しました。
他にも、台風や鳥など粟を脅かすものは次々と現れます。髙橋さんは状況に応じて防風ネットや防鳥ネットを設置し、風で粟が倒れないよう畑にヒモを張り巡らせ、粟を大切に守り育てました。髙橋さんの熱い思いが通じたのか、台風が直撃することはなく、9月には無事に抜穂祭を迎えられました。
宮中新嘗祭に献穀するという大義を果たし、並々ならぬ気持ち
献納が終わり大役を果たされた髙橋さんにお話を聞くと「苦労して育てた粟を無事に納めることができ、並々ならぬ気持ちでいる。宮中新嘗祭に献穀するという大義を果たせれば、自分の苦労は何でもない。目的を持ってする苦労は辛いものではないということを改めて実感した」と、笑顔を浮かべられました。髙橋さんの粟は、12月3日の千歳地区農業感謝まつりで粟餅のおしることして来場者に販売し、収穫の秋をみんなで祝いました。